金鎮度氏からの祝辞

華麗なる創作美術の極致
-朴正文画伯の常設ギャラリー開館記念式典に参加して-



去る11月21日、東京・銀座において、「朴正文画伯常設ギャラリー」オープン記念式典に招かれて参加した。
日本の美術団体が主催したこの式典には美術界の著名な重鎮らと文化芸術家,
そして在日同胞たちや報道関係者が参加していた。ひとりの在日朝鮮美術家の偉業をたたえる式場は厳かのなかにも祝いの熱気にあふれていた。
私が驚いたのは、朴正文画伯が朝鮮民主主義人民共和国から美術家の最高栄誉である「人民芸術家称号」受賞したことを祝って、権威ある新日本美術院が画伯に「最高栄誉大賞」を授与した事実である。まさに隔世の感がした。
生涯を通して、美術創作に捧げた朴正文画伯が共和国美術の最高栄誉である「人民芸術家称号」受賞を契機に、韓国では「海外特別功労賞」と「韓国国際展最高位大賞」を受賞した。
日本では、政府の「参議院議長賞」、「文部科学大臣賞」及び「外務大臣賞」等を受賞した。また、米国・国際学士院大学からは「世界最高功労章」と「名誉芸術学博士号」を受賞した。2017年にはフランス・パリにて、世界美術家の登竜門と云われる「ル・サロン」展にパステル画「寂寥」を初出品し、ブロンズ賞に輝いた。4年前のことである。他にもスペインやモンゴル、ミャンマーなど世界的規模で朴正文美術の一大旋風がまき起こった。国境を越えた美術界の最高位の数々の受章は在日同胞にとって前代未聞の国際的評価であり、云うまでもなくこのことはわが同胞社会における主体美術の新たな境地を切り拓いたばかりか、朝鮮美術の極致を魅せた快挙と云えよう。
会場に展示されたすべての作品一つひとつが明晰なリアリズムの手法による、躍動と生き生きとした繊細な描写に私は完全にはまって心酔し、しばらく足を止めた。展示作品を鑑賞し、もっとも強烈な印象を受けたのは、美術創作に対する画家の熱い情熱であり、すべての美術作品に一貫している理念が民族的主体性を鮮明にしながら、祖国愛、同胞愛、民族教育愛、そして祖国統一に対する切実な願いであるということと、それらを素材にした作品に大きな衝撃と感動を覚えた。
特に、画家が作品創作で具現した透徹な信念と美に対する限りない探究心、そして渾身の努力の結実として昇華された作品の高い思想芸術性と時事性、志向性への強いアッピールは美術に対する私の希薄な既成概念をひっくり返した。
数多くの「国宝」級の作品のなかでも、特に私の心を引きつけたのは会場入り口に展示されていた作品「民族の春」である。
これは2018年の創作品だが、歴史的な北南両首脳の感激的な会談と切実な祖国統一の念願を表現した作品で、その前面には北側の文化省から受賞した「国家美術功労賞」の賞状と南側の美術協会から受賞した「海外特別功労賞」の賞状が並んで飾ってあるのを見て感動、朴正文美術の世界では祖国統一がすでに成されたとの思いで胸が高鳴った。
優雅な描写に目を見張る「ポリサルタ-祈願」、舞姫の「剣の舞」などは実に圧巻であり、民族の魂と心を表した作品を通して、画家の哲学的着想に思いを寄せたのである。創作作品の多様性と創作における鋭利な洞察力と繊細な描写技法は画伯の稀有な天才的素質によるものと痛感した。
また、式典に参加し展示作品を鑑賞しながら、私は「朴正文美術」の偉大な力と感化力をあらためて再認識した。それは「美術」という媒体を通して出会う人間関係と朝日国交正常化へ向けての平和と友好親善文化交流の絆を強める意味で、政治が出来ない素晴らしい空間であると云うことだ。
式典参加者と来賓の祝辞を通して朴正文画伯の美術観と才能、画風と画力、そして人格と人柄を充分に知り得ることが出来た。現在画伯が日本美術界で担う職責と厚い信望が画伯の存在の大きさを示している。現在ピョンヤンにある朝鮮国立美術博物館には朴正文画伯の作品8点が「国宝」として所蔵されている。
あらゆる民族的差別と迫害をはねのけながら、民族教育の花園で学び育った在日同胞美術家が祖国の配慮により、気高い名誉称号と国家表彰を受け、世界美術界にデビューし注目をあびることによって在日同胞社会と民族教育の存在と位相を高めてくれたことに無性の喜びに浸った。全同胞の誇りであり栄誉でもある。と同時に画伯の快挙はコロナ禍の暗い世相で日々の生活に追われる、わが同胞たちに明るいニュースとなり大きな励みになったことは云うまでもない。
美術家なら誰もがうらやむギャラリーのメッカ、東京・銀座のど真ん中に「朴正文常設ギャラリー」を設けた意義は格別に大きいと思う。
在日同胞の一人として、朴正文画伯に心からの敬意と感謝を送りたい。
育ちゆくわが青少年学生たちをはじめ多くの同胞や日本の人たちが会場に訪れ観賞されることを切に願いたい。(2021.11.25) 金鎮度(男・82歳 愛知県名古屋市在住)